慢性腎炎について

IgA腎症で解明されていること・されていないこと(2013年版)
 当院は,日本腎臓学会の進行性腎障害研究班「IgA腎症治療分科会」の全国10カ所の班員施設の1つです。IgA腎症を治療する専門的な知識や研究成果をこれまで発表してきました。なかでも,ステロイドパルス療法を日本で初めてまとめて報告し,現在では全国のほとんどの施設で行われるまでに広まりました。ステロイドパルス療法は効果が早くかつ確実に得られる反面,副作用にも留意しなければならない治療法です。どのような状態の時にこの治療法がもっとも適応となるのか,あるいはより穏やかな治療法でも十分に効果が期待できるのかといった判断や,薬の量についても一人一人検討しなければなりません。また,おこりやすい副作用を個別に患者さんごとに予測し,未然に防止するために策をご一緒に考えます。この点に関して,他の病院で治療されている患者さんにセカンドピニオン(第2の意見)をお伝えすることもできます。

IgA腎症(あいじーえーじんしょう)の解説

 慢性腎炎の半数を占める,日本でもっとも多い腎臓の病気です。顕微鏡的血尿は必須で持続し,上気道炎,扁桃炎,腸炎(下痢,腹痛)などで38.0℃を越える高熱を伴うときコーラ色の肉眼的血尿発作が特徴的です。腎炎の勢いが完全になくなると顕微鏡的血尿(尿潜血)が陰性化します。なお,最初から潜血(-)であればIgA腎症は否定的です。IgAは免疫グロブリン(=抗体:immunogloburin)Aの略称で,IgAはのど,気管支,腸などの粘膜を外敵から守っている警察のような存在です。この守りが弱いと,粘膜に感染した病原体の一部とIgAが免疫複合体を作って血液中に入り,腎臓に流れ着きます。ちなみにIgGは血液中をパトロールしています。

 

 腎臓の糸球体の血液をろ過する膜(フィルター)に免疫複合体がひっかかると,2~3カ月とどまってジワジワと炎症をおこし,膜を破って糸球体の毛細血管がつぶれたり,その周囲が線維化して瘢痕組織に置き換わってしまいます。さらに,粘膜感染を繰り返していくと,腎臓にはどんどん免疫複合体がたまっていきます。このようにして起こるIgA腎症は20代前半に発病のピークがありますが,10歳以下でも,50歳以上でも発病することがあります。

 


 高熱に伴って,下痢や咳・痰・咽頭痛(扁桃炎)などの急性腸炎や上気道炎にかかると,コーラ色/番茶色の血尿がでることがあります。このような「急性増悪」した時には,糸球体に免疫複合体のサイズの小さいものが大量に流れ着いて,それを食べに白血球が集まり,糸球体に強い炎症が起こります。このように炎症細胞が全身から集まってきて腎臓全体が腫れますので,腰の上の方に鉛が入っているような腰痛を自覚することがあります。このような急性増悪時には早めに抗生物質を服用し,自宅で安静を保ち,保温,十分な飲水に努めましょう。肉眼的血尿は1~2日で消え,尿タンパクも1週間くらいで元に戻ります。(付:急性増悪が全身のサイトカイン血症によってもともと沈着していた免疫複合体の炎症が悪化するというとらえ方をする研究者もいます)

さて,尿タンパクが(±)~(+)(≒0.5g/日以下が持続しているなほとんど進行する心配はないのですが,
(++)(≒1.0g/日以下)以上となると5年,10年と経過するうちに腎臓の働きが低下してきます。

したがって,1日尿タンパク量が1.0gを越えている場合には,薬による治療がぜひとも必要です。その場合,1日尿タンパク量を2~3カ月ごとに測定して治療効果を判断するのがよいでしょう。以前は24時間蓄尿して尿タンパク量を測定していましたが,日々の変動

尿蛋白1g以上を放置すると10年でおよそ3割が慢性腎不全に移行しますので,尿検査を必ず定期的に受けて下さい(図)。

治療には,血小板凝集抑制薬,ACE阻害薬,ARB,ステロイド薬が有効ですが,血圧の管理,食事療法(食塩7g,カロリー35~40kcal/体重1kgあたり,蛋白制限0.6~1.2g/体重1kgあたりも効果的です。なお,0.8g/体重未満の強い蛋白制限についてはEBMあるいは感染,筋力低下などの危険性のためにお勧めしていません。


ステロイドパルス療法は金沢医療センターに勤務中で半月体形成を伴う活動性IgA腎症に対して効果があることをまとめて日本で初めて報告した治療法で,現在では全国に広まりました(日本腎臓学会誌46(8) 657-663.1992)。

最近,パルス療法に扁桃腺摘出術を合わせて行う扁摘パルス療法が注目されていますが,2013年現在でも,この治療法を行っているのは日本だけで,世界からは認められていません。さらに,重要な点は扁適を行なわないパルス単独療法との治療効果の差を無作為割り付け法(RCT)によって検討した厚生科学研究が全国12施設で実施され,80例あまりのデータが集まりました。これまでの中間報告では,扁摘をしてもしなくてもパルス療法の効果(尿蛋白減少と血尿の改善)には差が認められませんでしたが,2012年の腎臓学会総会では,血尿の消失率や尿タンパク量の減少速度に少し差があるのではないかと報告されました。

 さらに以前からのいくつかの発表データを紹介しますと,国立病院機構の腎研究グループでの14例(RCT)のデータを図に示しますと(下図),扁摘した群としなかった群とで,1日尿タンパク量はともに約1/3に減り,両群とも半数以上(57%)で尿潜血が消えていて,ほとんど差はありませんでした(2009年世界腎臓会議)。

2011年6月の日本腎臓学会総会のシンポジウム発表でも2群の尿蛋白の平均値は,図の折れ線グラフと同様に扁摘のあるなしでは差がみられませんでした。しかし,この時に追加されたデータとして,尿蛋白<0.3g/gCr(脚注*1)かつ尿赤血球<5個/視野に完全寛解(脚注*2)した割合は扁摘群45%
vs
非扁摘群25%とわずか(P=0.048)ですが扁摘群で良い結果と報告されました。ただし,完全寛解というのは十分すぎるほどの治療効果であって,重要なのは将来にわたってまず腎機能低下が進行しないと安心できる尿蛋白<0.5g/gCrとなる割合ですが,それはそれぞれ63%
vs 52%と有意な差にはなりませんでした。

 それでも,完全寛解が45% vs 25%,寛解が63% vs
52%と,扁摘した方が少しでも良くなる可能性があると期待したくなるのも無理はありません。とくに透析という言葉を出されると動揺してしまいますが,ここで注目すべき点は,この無作為割り付け研究(RCT)では扁桃炎を繰り返している患者さんを対象としているということです。現在問題となっているのは(≒患者さんが悩まれているのは),扁桃炎を起こしたことのない人や扁桃腺がほとんど腫れていない人までが扁摘を勧めれ(or
自ら選択し)ていることです。つまり,扁桃炎の起こしていない人を対象にした研究が未だに行われていないのです。

 

 扁桃が感染巣となっている場合は,ここから免疫複合体が流れ出して糸球体に引っかかるわけですので,扁桃に慢性の炎症をもっている人が扁摘した方が良いというのはむしろ当然のことなのです。つまり,この研究では2群で尿蛋白の減少効果に差が出るのは研究開始前から予想されていました。それにもかかわらず,当然差が出るべきなのにわずかにしか差が出ないということは,扁桃炎を起こしていない人を集めて同じ無作為割り付け法(RCT)を行うと,扁摘にはまったく効果がないという結果になる可能性があるということです。現時点では,扁桃炎をおこしたことのない(or 扁桃が現時点で腫れていない)人に扁摘を行うことには医学的な根拠(EBM)がないといわざるをえません。

 ちなみに,IgA腎症で扁桃に慢性の感染をもっている人(扁桃炎を繰り返す人も)はかなり少数派です。実は,血液中のIgAの7~8割は産生場所が腸管で,
コーラ色の尿を伴うようなIgA腎症の急性増悪の誘因の過半数は急性腸炎(下痢と発熱)です。ちなみに,ノロウイルス急性腸炎ではIgA腎症が激しく悪化します。

“透析”の恐怖を告知されると,少しでも病気が良くできるならその可能性にかけたいと,すがるような思いで扁摘に期待したくなりますが,扁桃が正常(手術前に耳鼻科医が必ず教えてくれます)にもかかわらず手術に飛びついても,10
日間の入院と10万円近くの医療費を払うだけになりかねません。また,味覚神経を傷つけて手術後に味がわからなくなったり,将来,心筋梗塞を起こしやすくなるのではないかといった合併症や副作用についての報告も新たに出てきています。現時点で明らかとなっていることは,「扁桃炎を1年に何度も繰り返す人は扁摘した方が良いが,扁桃炎を起こしたことがないIgA腎症の人が手術を受けても効果は期待できない」ということです(≒パルス療法単独で良い)。

 さて,もう1つ重要なポイントは,1日尿蛋白量が1.0g未満を持続していればほとんどの場合は透析にまで進行しないというのが腎臓学会の共通認識です。その根拠になるデータはACE阻害薬やARBなど進行を抑制する薬が使われる15年以上前の成績で明らかにされていて,現在ではさらに良い成績になっています。私たちの成績でも,尿蛋白が0.5~0.9g/
日では25人に1人が進行しますが,0.5g未満であれば98%は進行しません。残りの2%は経過中に尿蛋白が増えていた可能性が推測されますし,治った人は病院に来なくなりますので寛解の割合はさらに高いはずです。また,適度な運動による感染予防のみで3~5割が自然寛解します。

 最後に,扁摘パルス療法でIgA腎症の8割が完治するという成績を出しているような病院がありますが,その発表内容や論文を詳しく見てみますと,尿蛋白が0.5g未満の患者さんが半数以上を占めていました.これは扁摘パルス療法の効果というよりも,感染扁桃が切除されたことによる(単独)効果の可能性が考えられます。学会では,尿蛋白が0.5g未満の軽症例への扁摘パルス療法は副作用の面からも過剰な診療ではないかとの論議がしばしば聞かれます。尿蛋白が0.5g未満の場合は,98%以上の確率で進行しませんので,どうか落ち着いて,IgA腎症の複数の専門医にご相談してみてはいかがでしょうか。


<付録>  IgA腎症の発症・進展のメカニズム


1 糸球体腎炎(IgA腎症)発症のメカニズム

1.腎炎になりやすい人は、病原体に対して過敏に反応して、たくさんのIgA抗体を作りやすい体質をもっています。これは一種のアレルギーとも考えられています。実際に、花粉症やアレルギー性鼻炎(IgE抗体)を併せて持っている人もたくさんいます。ちなみにIgAとIgEの威厳には隣同士で,ともに高等動物しか有していません。

2.病原体が主に口・鼻あるいは食物に混ざって入り込んで、かぜ症状をおこします。発熱・のどの痛み・せきたん・下痢(げり)などをおこし、咽頭(のど)、肺、腸などで繁殖します。

3.病原体あるいはその一部が抗体(IgA)と結合します。病原体の繁殖が少なければ、その場所で抗体に殺されてしまいますが、繁殖が強いと一部は血液の中に入って、腎臓まで流れ着きます。腎臓の中の尿をろかする膜に引っかかって、そこにたまります。
2 糸球体にくっついているIgA


ふつうの顕微鏡では見えませんが、IgA抗体を光らせる蛍光顕微鏡で見ると、糸球体にくっついているIgA抗体が黄緑色に光って見えます。正常な人では、真っ暗闇でまったく光りません。なお,抗原を証明したとの報告がいくつかみられますが,複数の研究機関での追跡調査では十分確認されていません。

3 腎炎進行のメカニズム

               正常の糸球体
 IgA腎症(中等症)の糸球体

○IgA腎症では、ばい菌の体の一部とそれに対するIgA抗体とが複合体を作って、腎臓の尿をろ過する膜に引っかかります。

○人間にとってこれは異物ですので、糸球体の中の掃除を担当するメサンギウム細胞がこれを食べて処理しようとして増殖します。

○糸球体の空間はこの細胞が増殖することで窮屈になり、中でとぐろを巻いている毛細血管が圧迫されたり、つぶれてしまいます。


実は毛細血管の薄い壁から尿がしみ出されて作られていますので、毛細血管がつぶされることは尿を作るための血液の流れが減ることになります。つまり、腎臓の尿を作る働きが低下することになります。
4 IgA腎症の活動性はずっと続くのですか?

   → 「いいえ、15年くらいで決着がついてしまいます。」これは私見ですが・・・

「IgA腎症にかかったら、ずっと病気の勢いが続いて、一生薬を飲まないといけないんですか?」と言われる患者さんが多いのですが、私は「良い意味でも、悪い意味でも15年くらいで決着がつきます。」とお答えしています。

15年以上前には、IgA腎症に対してステロイドを使うことはあまりありませんでした。つまり、有効な治療法はなかったわけです。

このころの患者さんの経過をみてみますと、だいたい21~23歳頃に発病して、病気の勢いが強い患者さんでは、15年後の37歳前後に透析に導入されるという、だいたい一定のパターンを示しています。IgEが上昇する気管支喘息などのアレルギー疾患がしばしばIgA腎症と合併することからなんらかの共通する病態が潜んでいるものと考えられています。ちなみに,IgAとIgEの遺伝子は隣同士です。

さて、45歳を越えてから透析に導入される人は全体の5%以下とわずかで、そのほとんどは高血圧のコントロールが十分でない方でした。つまり、高血圧によって腎臓の血管を痛めて、いわゆる腎硬化症を合併したために腎臓を悪くしていました。45歳以上では、むしろ、IgA腎症の活動性はほとんどなくなってしまうのです。

一方,青年期にはIgA腎症の疾患活動性が高く,これを鋭敏に反映する半月体をみるとよくわかります。半月体ができる糸球体の割合は、若いときほど(初期ほど)高いことが多いことがわかっています(右図)。半月体が発見されたらパルス療法でなるべく早く病気を押さえ込んでしまうのが得策です。半月体はステロイド治療によってかなり確実に押さえ込むことができます。

5 病初期であればあるほど,パルス療法+ARB(or ACE阻害薬)がよく効きます

アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が、IgA腎症の尿蛋白を減少させることがわかってきました。この薬によって、尿蛋白は30~60%減少します。右図の人では、1回目の腎生検を行ったときには病気の勢いが強く、尿蛋白が2.0gくらいありました。このときにはACE阻害薬を使っても尿蛋白は2%程度しか減らなかったのですが、ステロイド治療などによって勢いを押さえることができると、ACE阻害薬の効果が格段に高まることを私たちがはじめて指摘しました。ACE阻害薬は、もともと高血圧の薬として開発されましたが、糸球体の中のも毛細血管の圧力をおとすことによって、尿蛋白が減ることがわかってきました。しかし、この薬は病気を元から絶つ薬ではありません。ですから、ステロイドを併用すると、効果が発揮されやすいのです。

ARBとACE阻害薬の違いは,前者に咳(せき)の副作用がないことです。この両者を併用(ACE阻害薬+ARB)するとさらに尿蛋白が減少することもわかってきましたが,腎機能が逆に低下しやすいのではないかという意見も一部にはあります。重要な点は糸球体はある程度破壊される前に治療を始めることです。病気の初期の段階あるいは尿タンパク量が1.0g/日未満の人がよく効きます。

 

 



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